2012年12月27日木曜日

小泉「構造改革」と不良債権 2

 2000年から2002年、2003年にかけて日本経済は、ふたたび景気後退の局面に入ってゆきます。その理由はどこにあったのでしょうか?
 2000年〜2001年にかけての景気後退の一つの理由が外からの影響にあることは否定できません。アメリカ合衆国では、2000年にクリントン大統領が『大統領の経済報告』(経済白書)で「ニューエコノミー」について語りますが、皮肉にもその直後にITバブルが崩壊し、NASDAQなどの株価が暴落し、実体経済の景気後退が始まります。その際、海外からの輸入が減少したことは言うまでもありません。それに伴い日本からの対米輸出も減少し、それが日本の景気を悪化させる要因となりました。


 しかし、日本の景気後退をもたらした要因は、それだけではありません。実は、2000年には企業倒産件数も増えましたが、倒産企業の負債総額も著しく増加し、史上最大の規模(東京商工リサーチの調査によると25兆円ほど)に達しました。どうしてでしょうか?
 その理由は、政府(森政権)が緊縮財政政策を取りはじめたことにあります。しかも、この政策は2001年にあとを継いだ小泉政権によっても続けられます。小泉政権は、最初は一般会計の赤字額を30兆円以内に抑える緊縮政策を取ります。このように30兆円以内に抑制する政策はその後事実上維持できなくなり、小泉氏も「30兆円」に言及しなくなりますが、緊縮政策は続きます。その結果、橋本「財政構造改革」の時期と同様に公的資本形成の成長寄与度はマイナスを記録しつづけ、また政府最終消費支出の寄与度も徐々に低下してゆきました。
 その上に、不良債権処理の加速化・厳格化がはかられましたが、それは企業の倒産を促進し、また不良債権というリスクを恐れた銀行の貸出態度の悪化をもたらしました。2001年9月頃からりそな銀行の破産問題が浮上していた2003年3月頃にかけて銀行の貸出態度は急速に悪化しています。「貸し渋り」、「貸し剥がし」など一種の「信用逼迫」の現象(credit crunch)が生じていたと見ることができます。
 このように米国のITバブル崩壊に起因する景気後退に際して、小泉政権は緊縮政策、不良債権処理の加速化という景気をさらに悪化させる政策を取ったことになります。2000年から2002年にかけて銀行の不良債権が急激に増加したことはまったく不思議なことではありません。
 ちなみに、すでに忘れかけているのではないかと思うのですが、小泉氏は「構造改革」というキャッチコピーを巧みに使いました。それについてほとんど何も説明することなしに、です。その証拠に、私はよく「構造改革」を信じている人たちに、「構造改革」とは何ですか。と質問してみましたが、回答できる人はいませんでした。ただ何となく、日本社会の構造に問題があり、改革しなければならないのだと思い込んでいるだけで、どこがどのように悪いのか言える人はいなかったと思います。当の小泉氏本人が説明していないのですから、当然と言えば当然です。
 簡単に言えば、近年の「構造改革」というのは、「ワシントン・コンセンサス」であるとか、新自由主義政策の別名です。簡単に言えば、経済が停滞しているときに、その理由が需要側ではなく、供給側(サプライサイド)にあると考えて、そのための改造(リストラ、restructuring)をするのが構造改革です。ですから、例えばサッチャー首相やレーガン大統領が行なったのと同じこと(富裕者の減税、法人税の引き下げ、企業利潤を高めるための雇用政策、つまり端的に言えば賃金抑制政策や、最低賃金・失業保険の引き下げ、派遣業の自由化、競争入札制度など)です。これらの政策を行なえば、おのずと貯蓄が増え、それが企業の投資を拡大し、経済成長を引き起こし、富裕者が富み、その一部がトリックル・ダウンし(こぼれおち)、貧者の所得もそれなりに上昇する、といった思想が構造改革です。
 しかし、ここでは詳しく述べることができませんが、そうした思想は宣伝に使われただけであり、実際にはそこで約束されていたことは実現されませんでした。むしろ、米英などのように貧富の格差が拡大したに過ぎないことは、今では一目瞭然です。人々が将来不安をかかえて消費を削っているのに(つまり問題は需要側にあり、生産能力の利用率が低下しているのに)、構造改革は、供給側=生産能力の改善をはかるのですから、うまく行くわけがありません。
 
 さて、景気を悪化させる政策を取り続けた小泉政権ですが、一つだけラッキーなことがありました。それは2002年度の途中から米国の財政・金融政策が功を奏して、新たなバブル(住宅バブル・金融資産バブル)が発生し、2007年まで「消費ブーム」が生じたことです。この米国のバブルと消費ブームのせいで日本の対米輸出が増加し、「景気拡大」(好況ではありません。ただ前期よりGDPがちょっとでも増えたというだけです)が生じました。しかし、それがほとんどの人にとって実感の伴わない不景気な状態を意味したことは言うまでもありません。
 2008年以降になってようやく小泉首相に騙されましたと言うようになった人を私は何人も知っています。(続く)

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