2013年1月6日日曜日

生産と価格形成

 需要と供給による価格形成という新古典派の理論(単純理論)が現実に成立しない以上、われわれはまったく別の方法で価格形成のメカニズムを説明しなければなりません。そのためには、生産と分配のメカニズムを検討する必要があります。

 モノを生産するには、様々な生産要素や生産条件が必要となることは言うまでもありません。例えば米を生産するためには、土地(水田や畑などの耕地)、水利、大気、適度な気候、農道、農機具、種籾、肥料、農薬、労働力などが必要です。これらの要素・条件の中には、自然の恵みによって得られるものもあれば、貨幣(お金)を支払って調達するものもあり、また政府の公共事業によって準備されているものもあります。これらはまた、生産の主体的な要素である労働とその他の自然の恵みに2分することもできるでしょう。ギリシャ・ローマの時代から、自然は富みの母であり、労働は富の父であると言われた所以です。
 しかし、現代の市場経済では、人々は貨幣を支出して得られる生産要素・条件だけを考え、市場の外部の世界を見ない傾向があります。これは人間の経済活動全体を考察する場合には正しい態度とは言えませんが、理解できないわけではありません。というのも、市場の外部世界は、直接モノを生産している人々にとっては、貨幣支出を必要としない要素、あるいは(個別的には)費用のかからない要素だからです。
 私たちも、このことに注意を払った上で、当面、貨幣支出の必要となる要素だけを考えることにします。
 モノを生産するときにかかる費用(貨幣支出)は、まず物的費用と人件費(雇用される人に対する貨幣賃金支払い)に区分されます。また前者は、減価償却費(固定費用)と原材料費等の流動的な費用に二分されます。次に生産されたモノは売却されますが、それによって実現された売上高(収入)から費用を差し引いた部分は、利潤(利益)となります。こうした関係を数式で示せば次にようになります。
  A=(D+M)+W+R
        ただし、A:収入、D:減価償却費、M:原材料費等、W:賃金、R:利潤

 ここで、減価償却費というのは、固定資本ストック(資本装備)の費用の当該期間中における回収分です。例えば100万円の機械を購入したとします。その機械が維持費用を必要とせず10年間稼働することができるとすると、一年間につき平均して10万円を上乗せしなければなりません。(以下、特に断りのない限り、フローの経済計算は1年間を単位として行ないます。)
 ところで、固定資本ストック(資本装備)も原材料等も、それを購入して生産に利用する企業にとっては費用ですが、賃金と利潤については事情が異なります。この部分は、当該企業によって生み出された付加価値であり、それゆえに当該企業の生産によって生まれた所得です。そこでこの部分だけを取り出して、Yで示すことにします。
  Y=W+R
上で示したようにRは、利潤、つまり企業の所得ですが、理論上はともかく、実践上は利潤と減価償却費は同じキャッシュフローであり、区別することは簡単ではありません。そこで利潤に減価償却費Dを加えた値を粗利潤と呼び、所得Yに減価償却費Dを加えた値を粗所得と呼びます。
  Y+D=W+(D+R)
この式は、経済学の出発点となる基本的な式の一つです。
 次に進みます。
 いま当該企業が一年間でQ単位の消費(財またはサービス)を生産・販売し、その売上高(収入)がAに等しく、付加価値がYに等しいとします。このとき、その商品の価格(単価)を p とすると、pQ=A という恒等式が得られます。
  pQ=A=D+M+W+R
  p=A/Q=(D+M+W+R)/Q      (1)

 さて、ここで述べたことは商品価格の形成にとってどのような意味を持つでしょうか?
 ・商品の価格は、所得の大きさYと労働生産性Qに関係している。それは所得に正比例し、労働生産性に反比例します。
 ・もちろん、D+Mも商品価格の構成の中に入ります。しかし、これは別の企業によって生産された商品の付加価値(所得)に相当する部分であり、それも結局は別の企業の所得と等しくなります。そこで価格形成の問題を考えるときには、この部分を捨象することができます。そこで上の式を次のように単純化します。
  p=Y/Q=(W+R)/Q         (2)
 ・そこで次に労働生産性と所得の大きさがどのような要因によって決まるかを考えなければなりません。まず労働生産性ですが、それが労働者の側の諸条件(知識、熟練、肉体的な力)と客観的な労働条件・労働対象・労働手段(原材料、道具、機械、技術、環境など)によって決まることは言うまでもありません。
 所得の大きさはどうでしょうか? これが大問題です。
 上の(2)式は差し当たりは恒等式であり、労働生産性が所与とすると、価格pが所得大きさYの結果であると考えることもでき、また逆に所得が価格の結果であると考えることもできます。あるいはどちらかが原因でどちらかが結果であると考えることは許されないのかも知れません。その場合は、相互規定的な関係ということになります。
 その上、(2)式は、所得が賃金と利潤(付加価値、所得)からなることを示しています。このことは、商品価格が所得分配に関係していることを示すものに他なりません。いま、Rを賃金Wに対する割合θで示されると、R=W・θ ですから、
  W+R=W+W・θ=W(1+θ)
となります。また(2)式は、次のように変形されます。
  p=W(1ーθ)/Q

 繰り返します。この式は恒等式、それも事後的に成立する恒等式ですが、価格形成のメカニズムを考えるときにもっとも重要な式となります。

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