2013年2月8日金曜日

外国為替相場 その6 BTEXとAEX(図版修正)

  明日からしばらく居所を不在にしますので、しばらくブログの更新ができなくなります。今日は、外国為替相場の決定メカニズムを本格的に構築するための準備作業をしておきたいと思います。
 まず前に説明した新古典派によるPPP(購買力平価)の理論ですが、それがいくつかの国・地域では長期のケースで成り立つことがあると述べました。一つの理由としては、それは国際資本移動(外国直接投資とポートフォリオ投資(証券投資)の合計)が貿易取引(フロー)に比べてかなり小さい時期と地域だからという事情があります。
 そこで、まず外国資本移動がゼロか、または貿易取引に比べてかなり小さい場合を考えてみます。そして、その場合には購買力平価が為替相場を決定すると想定します。さらにそれによって決まる外国為替相場をBTEXと表示することにします。(BTEXは、Balanced -Trade Exchange Rate、つまり貿易収支を均衡させる為替相場の省略形です。)
 さて、例えば日本の輸入業者が米国から商品を輸入すると、米ドルを以て米国の輸出業者に支払いをしなければなりませので、米ドルに対する需要が生まれることになります。そのとき日本の輸出業者は代わりに日本円を供給することになります。同様に、米国の輸入業者が日本の輸出業者から輸入すると、日本円に対する需要が生じ、それと交換にドルの供給が行なわれることになります。貿易収支の均衡がとれる場合には、米ドルの供給=米ドルに対する需要(および日本円の供給=日本円に対する需要となります。
 ここで、その時のBTEXを(¥/$)*(この表示のしかたを邦貨建てといいます)、または($/¥)*(この表示法を外貨建てと言います)と表示します。普通、日本では邦貨建てを使うので、ここでは前者の表示法を使います。
 次に、現実の為替相場(¥/$)がBTEXから乖離する場合を考えます。まず、その数値が(¥/$)*より高くなる場合ですが、それにつれて(つまり円安・ドル高になるにつれて)、ceteris paribus(他の事情が変わらないならば)、日本から見て輸出が増えてゆき、輸入が減ってゆくでしょう。つまり、貿易収支は黒字になり、その黒字が拡大してゆきます。逆に為替相場の数値が(¥/$)*より低くなる(つまり円高・ドル安)になる場合には、逆のこと(貿易収支の赤字の拡大)が生じます。
 ここまでは、新古典派の説明と本質的に同じです。
 しかし、この後、新古典派の議論では、例えば日本の貿易収支が黒字(輸出超過)の場合、米ドルの供給が米ドルに対する需要より大きくなり(あるいは日本円に対する需要が日本円の供給より大きくなり、といっても同じです)、その結果、ドル安・円高への反転が生じ、為替相場は最終的には均衡点BTEXに戻ろうとします。(もちろん、逆の場合は逆ですが、為替相場がBTEXに戻ることは同じです。)
 ところが、繰り返すと、現実は決してそうはなっていません。日本の貿易収支黒字(輸出の超過)は1980年代から今日までずっと続いていました(ただし一昨年・昨年は違いますが、ここでは問題が複雑になるので、その事情は考えないことにします)。ということは、新古典派の論理を徹底させると、BTEXの水準から見て、為替相場は、まだまだかなりの円安・ドル高の水準にあるのです。
 そこで、新古典派の経済学者は頭を抱え込みます。
 でも、ちょっと考えれば分かるはずです。新古典派の人たちも、米ドルや日本円の<需要と供給>の関係が為替相場を調整すると認めているのです(上記を参照)。ところが、米ドルや日本円の<需要と供給>を生み出すのは、貿易取引だけではありません。国際資本取引(貿易取引の40倍以上の金額です)があります。それさえ認めれば、あとは比較的簡単です。
 例えば日本の投資家が米国の資産(国債や株式)を購入するときには、米ドルに対する需要が生じ、それと交換に日本円の供給が行なわれます。米国の投資家が日本の株式を購入する場合も、仕組みは同じです。もし貿易取引に伴う通貨の需要と供給が為替相場を決定すると考えるならば、資本取引に伴う通貨の需要と供給も同じ作用を及ぼすと考えていけない理由はありません。(それを妨げているのは、どうしても貿易均衡理論を導きたいと欲している理論家の「思想・信条」だけです。)
 そこで、いま貿易取引と国際資本取引(直接投資とポートフォリオ投資)の両者による通貨の需要と供給によって決まる為替相場(つまり現実の為替相場です)をAER(Asset Exchange Rate の略)と呼ぶことにします。
 ここまで書けば、読者にはおわかりのように、現在では、BTEXとAEXが乖離しているというのが国際経済の真相だということになります。
 ただし、ここで次の疑問が生じます。それは、日本から見ると、貿易収支が黒字(輸出超過)だったことが示すように、現実の為替相場(¥/$)はBTEXの基準から見て円安・ドル高となっています(もちろん米国から見ても、貿易収支は赤字ですから、BTEXの基準から見てドル高・円安となり、同じです)が、このように(¥/$)>(¥/$)*となるのはどうしてだろうか、という点です。
 この点の説明は後日にまわします。差し当たりは、国際資本移動に大きく左右されているAEX(現実の為替相場)がBTEX(貿易収支を均衡させる為替相場)から乖離しているのが、むしろ通常だということを理解することが肝要です。
 参考のために、下に説明のための図を示します。この図では、日本を自国としています。また EO が説明中の AEX、E1 が BTEX に相当します。Q2ーQ1は貿易収支(黒字)です。また国際経済学を学んだことのある人にとっては常識かもしれませんが、Q1ーQ2は資本収支(赤字)です。貿易収支(経常収支)と資本収支との合計はゼロになります。Q0 は為替の取引量であり、それは貿易取引(Q1、Q2)の少なくとも10倍以上はあるはずですが、下は模式図ですので、遠く引き離すわけにもいかず、現実よりもかなり近くに描いています。
 問題の焦点は、いまや下図の右側にあることに注意してください。
 (2月8日の図版に誤りがありましたので、訂正します。)






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