2014年2月9日日曜日

ユーロ圏の債務危機 1 怠惰と放漫財政のためではない

 ユーロ圏、特にギリシャ、スペイン、ポルトガル、アイルランドなど周辺諸国を中心としてヨーロッパ諸国が近年深刻な経済危機(債務危機、財政危機、景気後退、失業など)に見舞われていることは、マスコミ等でも周知のところです。失業率は危険水域に達し、特に若年者の失業率にいたっては40%を超えている地域もざらにあります。
 (日本では、ヨーロッパ債務危機など昔の話という雰囲気もありますが、決してそうではありません。ヨーロッパでも米国でも大問題でありつづけています。これは日本のことを考えればよく分かるでしょう。1990年代の初頭の金融危機から日本は「失われた20年」(lost two decades)を経験しました。また、欧米日などでバブルが再発すれば、ふたたび同じことが繰り返される危険性があります。)
 
 どうしてこのようなことになったのか?
 
 よく広まっている意見の一つは、簡単に言うと、「ギリシャ人は怠惰(lazy)だから」といった怠惰説や、国民が怠け者なのに政府が赤字をおして放漫な財政支出を通じて消費を支えていたという放漫財政支出説などでしょう。英語の twitter などによく出てきます。マスコミの報道でも、そうだと断定しているわけではありませんが、それを示唆するスタンスのものが多いように思います。

 確かにギリシャ人(失礼!)は怠惰なのかもしれません。私の知っているギリシャ出身の経済学者(N.Lapavitsas、金融論、ロンドン大学)も、「ギリシャ人は怠惰だ」ということを否定はしていません(もちろん、これは比較の問題であり、ギリシャ人はドイツ人や日本人に比べて勤勉ではないという意味です)。しかし、金融危機は怠惰から生じるわけでも何でもありません。もしそうならば、世界中にギリシャ人より怠惰な国民はいるでしょうから、そこではいつも金融危機に見舞われることになりますが、決してそうではありません。それに金融危機はアメリカ合衆国でも発生していますが、アメリカ人は果たして怠惰なのでしょうか? 米国の労働分析局のデータでは、平均的な勤労者の労働時間は、フランス人やドイツ人のそれよりはるかに長いことが知られます。

 放漫財政支出説のほうはどうでしょうか? 統計(EUROSTAT, AMECO, OECDなどが簡単に利用できます)からは、たしかに21世紀に入ってからヨーロッパ諸国における財政赤字(単年度)と政府の粗債務(ストック)の対GDP比が急激に増えてきました。しかし、注意しなければならないのは、こうした財政赤字と政府債務の上昇は、金融危機が生じ、景気後退が始まった2006〜2007年頃から始まったことです。(この点で、ギリシャのケースは、少し異なる点もありますが、そこでも財政赤字と政府債務は、2006年以降に急激に増えています。)要するに財政支出の拡大は、金融危機の原因ではなく、むしろ結果です。

 たしかに次のようなことは言えます。金融危機・経済危機の結果であれ、財政赤字と政府債務の拡大は、しだいに政府に対する信頼を損ねてゆき、ソブリン危機(財政危機)をもたらす、と。しかし、だからといって、増税と支出削減という緊縮財政政策(austerity)を実施しようとすると、今度は、人々の可処分所得=購買力=有効需要を減じることになり、デフレ不況の効果を強めることになります。かつての日本、現在の米国やヨーロッパ諸国が苦悩しているのは、こうした状況をめぐってです。

 さて、どうしてこうなってしまったのでしょうか?
 われわれはどうしても金融危機・債務危機をもたらした真相を探る必要があります。
 そこで、しばらくは、こうした問題をもたらした歴史的事情をめぐる真相・深層を検討することとしたいと思います。それよって、怠惰説や放漫財政支出説などでは決して明らかにされることのない根本的な問題があったことを明らかにしたいと思います。
 その問題とは、単一通貨圏(ユーロ圏)の創設です。それがどのような事態をヨーロッパにもたらしたのか、ヨーロッパや米国の有力な経済学者の分析、見解を紹介しながら、明らかにしてゆく予定です。

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