2015年7月5日日曜日

緊急にギリシャ危機について

 マスコミがギリシャ危機を論じるとき、しばしばギリシャ人の「怠惰」、「身の丈にあった生活をしていない」こと、「放漫財政」のせいにします。
 しかし、これはまったくの誤った俗説にすぎません。

 本当のところは、どうでしょうか?
 もし上に挙げた「怠惰」などが債務危機の理由ならば、なぜ2009年頃になって突然生じたのでしょうか? 思考力のある人なら、ちょっと考えるだけでおかしいと思うはず。

 論より証拠、実際の統計とニュース情報を紹介して、真相を示したいと思います。

 1)債務危機は、ギリシャがユーロ圏に参加し、ドイツ等の銀行から巨額の融資を受けるところから始まりました。
 下の図は、ヨーロッパ委員会(EC)の統計データから作成したものです。純借入なので、返済等は差し引いてあります。1997年以降、借入額が激増していますが、その際、2007年頃までの借入主体は基本的に民間部門(企業、家計)です。
 

 巨額の資金がギリシャに流れたことがわかります。それが資産インフレ(バブル)をもたらしたことは言うまでもありません。

2)しかし、2006年〜2007年にかけて雲行きが怪しくなります。2007年には、欧米の金融機関で取り付け(runs)が生じます。2009のリーマンショックの2年ほど前です。
 このとき、EU、IMF、ECBなどに役員を送り込んでいたゴールドマンサックスは、債務危機が「脆弱な欧州の周辺部に波及する、まずい」と考えて、ギリシャ政府財政の不正会計操作を支援します。要するに、政府粗負債がGDPでそれほどの割合になていないようにとり繕い、ドイツの銀行等からの負債を増やし、政府支出を膨張させました。このことは下図からも明らかです。何故か Ameco のデータには2007年以前の政府債務データが掲載されていませんが、政府債務が2008年から2011年にかけて急増することが分かります。4年で700億ユーロという巨額です。債務GDP比率も100%を少し超える程度から170%を超えるまでに急上昇しました。
 なお、マーストリヒト基準では、粗債務残高・GDP比率は60%以内、毎年の財政赤字・GDP比は3%以内とされていましたが、ギリシャは参加条件として、それより高くてもよいと認められていました。



 出典)Ameco on-line data. Net borrowing, government gross debt の項目。

 ゴールドマンサックスの不正会計処理への関与は、2010年にEUでも問題となり、ヨーロッパ議会がゴールドマンサックスの調査を命じています。

 繰り返しになりますが、「怠惰」を理由とする債務危機はありません。ヨーロッパをも捉えている金融化が原因です。金融化は、人々(企業、家計、政府部門)が負債を増やす装置を創り出しては、キャピタル・ゲインを得るというしくみです。その中にギリシャが巻き込まれたにすぎません。

 金融機関に関心があるのは儲けだけです。
 彼らは債務危機が顕在化すると、ECBに巨額の不良債権を買い取らせる一方,損失をこうむらないように、ギリシャ(やアイルランドやポルトガル、スペインなど)には緊縮をおしつけることにしか関心がありません。しかも、それにEU全体、ECB、IMF、債権団すべてが関与しています。
 もし緊縮がギリシャ経済を立ち直らせるのなら、それもよいでしょう。しかし、そのようなことはありえず、むしろギリシャ経済をいっそうの破綻に導きます。
 いまトロイカ(EC、ECB、IMF)や債権団は、ギリシャの国民と政治家に緊縮に反対しないよう脅し(blackmailing)をかけることに懸命です。反対なら、彼ら自身の利益に響きますし、最悪の場合、ユーロ圏全体の崩壊がすぐに始まるかもしれません。
 もっとも、いまユーロは死に体であり、まったく機能していません。それはR・マンデルの言うような「最適通貨圏」ではなく、そもそも無理だったのです。結局、トッド氏や多くの良識的な経済学者が正しく指摘したように、ユーロ圏はドイツの金融的利害と新重商主義のための制度に他ならなかったというのが正しい見方でしょう。
 ユーロ圏を存続させたいなら、金融化の利益にそった緊縮ではなく、「最適通貨圏」となるような政策を取らなければなりません。さもなければ、今のユーロ圏は持続不能です。
 そのことにギリシャ人はもちろん、ヨーロッパ全体が気づき始め、声を出しはじめています。
  



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