2017年7月9日日曜日

5月3日『読売新聞』「安倍首相インタビュー全文」を読む 雑感

 ある所で、例の改憲に関する「安倍首相インタビュー全文」(『読売新聞』5月3日付)を読む機会があった。
 新聞には、<自衛隊の合憲化使命>、<「違憲かもしれないが命張れ」では無責任>、<国民の目の前で具体的な議論していく>、<教育「一億総活躍」に役割>などの見だしが並んでいる。
 以下はそれを読んだ感想である。
 1)特にアベ改憲を実現しないようにするためにも、よく読んでほしい。
  それなりに説得力のありそうな文章だからだ。
 2)このインタビュー全文は、おそらく読売新聞社との綿密な相談の上に文章化されたものであろう。もちろん、その証拠を私が持っているわけではない。しかし、国会で追及されたとき、安倍氏が自分で説明するのではなく、新聞を読むように求めたことは、そう推測させる一つとなる。また安倍氏が理路整然とこのように語りえたとは、私には到底思えない。だが、特に根拠があるわけではないので、この点は措いておこう。
 3)現状では、自衛隊は災害救助をはじめ、国民を守る仕事をしているが、一方で、80パーセントもの憲法学者が「違憲」を主張しているという現状(「違憲かもしれないが命張れ」では無責任)は、そこそこに有権者に訴える力を持つかもしれない。
 また現行9条の1,2項はそのままにしておき、自衛隊に関する条項をつけ加える(加憲)もまた有権者に訴える力を持つかもしれない。
 4)しかし、ここで憲法9条をよく読んでみよう。
 
 第九条 日本国民は、正義と秩序とを基調とする国際平和を誠実に希求し、陸海空軍その他の戦力を保持せず。 国の交戦権を否認することを声明す。
 第二項 前掲の目的を達するため、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを抛棄する。

 これに「自衛隊」条項を付加した場合、どのような条文となるのだろうか?
 一方で、<戦力を保持せず、国の交戦権を否認する>、<戦争><武力による威嚇又は武力の行使>を放棄するとしている項目とどう整合するのだろうか? しかし、それ以上に重要なことがある。
 
 5)まず、改憲案がこのように変化したのは、安倍首相自身の現状に対する認識の変化があったからであろう。つまり安倍氏の軍事路線は「危ない」という認識の国民の間での高まりである。
 本来の(かつての)自民党の改憲案(2012年)では、次のように書かれている。

 9条2項削除・国防軍創設
 第二章 安全保障
 (平和主義)
 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
 2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
 (国防軍)
 第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。 
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前2項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。


 見られるように、第9条の改憲案では、武力・軍隊(国防軍)を保持することが合憲化され、かつ「自衛権」(つまり自衛という名目の戦争)を認める方向に根本的に変えられている。 
 6)この改憲案と5月3日の「安倍首相インタビュー」の間に、何があったのか? それはもちろんアベ政治・アベ改憲への国民的な拒否の高まりである。各種の世論調査でも、自民党の改憲案のあまりのひどさにマスコミも公表を尻込みし、また改憲に反対する意見が日ごとに高まっていた。「安倍首相インタビュー」はこうした情勢を見通した変化を示すものであることは明らかである。
 7)安倍晋三氏は、明らかに失敗したと言わざるをえない。もし、これまでの安倍政治(特定秘密法、戦争法、共謀罪法、安倍友学園問題<これには文書の隠滅、警察への圧力、省庁への処分をちらつかせる圧力などを含む>、失態・失言など)の経過がなく、いきなり、9条の1,2項をそのままにして簡潔に「自衛権」条項を付加するだけでならば、有権者は説得されてしまったかもしれない。
 8)だが、安倍氏は、首相就任以来、軍事にひた走ってきた。特定秘密法の制定があり、さらに勝手な「解釈改憲」を行い、安保法制(「戦争法」)によって日本が自衛隊を外国で戦争することができる国にしてしまった。また「集団的自衛権」を認めたが、これは外国(さしあたり米国)と軍隊の存在を前提とする軍事同盟を結ぶことを公式に認めるものであり、かつ米国が「先制攻撃」を否認していない以上、その「先制攻撃」を認めることにしてしまった。つまり自衛のための先制攻撃(!)を認めたのである。
 9)原稿憲法の下でさえ、このような状態である。もし仮に安倍政権にもくろむこのような改憲(加憲)が認められてしまえば、それは自衛隊員の死(戦死)の危険性を高めるだけにでなく、日本を戦争に巻き込む危険性を持つものであることは言うまでもない。
 そのような軍隊が合法化は、軍事法廷に関する法律の制定をもたらし、共謀罪法と連携して日本の国民をさらに軍事に導く危険性を持つ。
 決して安倍氏の虚言に騙されてはならない、と思う今日このごろである。




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