2017年7月15日土曜日

安倍氏の経済政策の経済的帰結 12 マネー資本主義と「プレデター国家」

 安倍氏の経済政策が「新自由主義的」な色彩を濃厚に帯びていると、本シリーズの最初の方で書いた。しかし、その政策がまったく「自由市場」に経済活動のすべてを委ねているかといえば、決してそうではない。
 新自由主義の本家をなす米国でもそうである。米国の経済学者、ジェームス・ガルブレイス氏が強調するように、保守派はとうの昔に実態的には「自由市場」を放棄しており、むしろ国家を一部の人々の利益のために有効に利用する「プレデター国家」(掠奪者国家)になってしまった。もちろん、この恩恵を受けるのは、一握りの金融業者、投資家、経営者、特に巨大企業のCEOs(最高経営責任者)、一部の政治家などである。
 ただし、彼らは「新自由主義」の看板を完全に下ろしてしまったのでは決してない。彼らにとって利用価値が高いと判断された場合には、躊躇なく利用する。要するに、一握りのプレデター(略奪者)たちは、自分たちに利益になるように市場と国家権力との癒着をはかっている、これがガルブレイス氏の結論である。(詳しくは『プレデター国家』(The Predator State, 2008)を参照。残念ながら翻訳はない。)

 さて、このプレデターたちが特に関心を示すのが金融の領域、マネー資本主義である。それはインカム・ゲイン(利子配当)だけでなく、キャピタル・ゲイン(売買差益)をもたらす。このマネー資本主義は、米国でもすでに19世紀末から20世紀初頭には成立しており、これも有名は米国の経済学者、T・ヴェブレンは、「不在所有」(absentee ownership)の名をもって呼んでいる。ヴェブレンによれば、それは「他の誰かを犠牲にして(または他の誰かの費用でただで純利得を得ること」(to get net gains for nothing at the cost of any others)である。
 こうしたマネー資本主義が20世紀に世界経済を大混乱に陥れたのち、戦後は規制を受けることになったため、しばらくなりをひそめていたが、1980年代以降の金融自由化とともにふたたび現れ、金融崩壊と財政崩壊、経済的混乱を起こしてきたことは周知のところであろう。

 わがアベ政権もこの金融資本主義のとりこになっていることは疑いない。
 しかも、安倍氏が金融を「自由市場」に委ねることによって純利得を生み出そうとしているのではなく、まさに「プレデター国家」よろしく国家ぐるみの方策によって純利得を生み出そうとしていることは、まったく明白である。それは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、以下公的年金基金という)と日銀の資金(ETF)を利用して官制相場を生み出してきたことに示される。
 ここでは、そのことを簡単に、次の図によって示そう。
 まずは日経225の動向であるが、安倍氏が首相に就任したのち、株価(日経225)が急速に上昇している。その後、いったん停滞したのち、2014年後半から翌年初頭にかけて急上昇している。だが、2015年に頂点に達した後、翌年秋にかけて低下したのち、年末から翌年にかけて幾分回復している。


  このような株価の変動が、GPIF(公的年金基金)や日銀の資産運用と密接に関係するものであったことは、すでに多くの人によって明らかにされており、私がここで繰り返す必要もないくらいであろう。そこで、ここでは次のグラフを掲げるにとどめておこう。
 

 注)国内株式~短期資産までがGPIFの資産運用の増減額、最後が日銀のETF。
   グラフは前年の3月末日から当該年の3月末実までの増減額を示す。 

  少しデータは古いが、官制資金が官制相場と大いに関わってきたことを示す図もあげておこう。



 安倍氏が首相に就任したのち、GPIFは、保有する国内債券(国債)を日銀に売却するとともに、国内株式や外国株式、外国債券を大量に購入しはじめた。上の図と下の図を照らし合わせてみれば、日本の株式価格上昇がまさに官制相場だったことが分かるだろう。
 また2014年からは、日銀のETF(信託財産指数連動型上場投資信託)が増加しはじめている。しかし、2015年度には株価が下落し、またそれと歩調を合わせてGPIFの資産運用額も年度末までに増えていない。この年、GPIFは巨額の損失を計上した。要するに、国民の財産をキャピタルロス(売買差損)の形で失ったのである。この年には株を買い支えた公的資金はETFであった。
 2016年度にはGPIFも日銀(ETF)も巨額の国内株式購入の増額を行っている。その額は10兆円ほどに達する。たしかに株価(日経225)は、わずかに回復した。しかし、それは2012年から2015年の上昇に比べれば、きわめて小幅にすぎない。
 おそらく、外国人投資家の日本株購入がなくなり、大量売りが行われれば、ひとたまりもないであろう。ふたたび国民の財産が大きく損なわれる危険性はきわめて大きい。
 最後の図からもわかるように、官制資金は相場に大きい影響を与えるが、それを織り込んで先を予想しながら行動する「投資ファンド」はもっと巨額である。

 アベノミクスが実体経済には害悪をもたらした上、マネー資本主義(不在所有)の危険な橋をわたっていることは明白である。
 
 

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