2017年7月13日木曜日

安倍氏の経済政策の経済的帰結 8 たしかに「アホノミクス」です

 浜矩子さんが述べるように「アベノミクス」は、たしかに「アホノミクス」または「どアホノミクス」と呼べるだろう。
 私は、本来性格的に人を激しく非難したくない質だが、安倍氏については、事情が異なる。彼は一国の総理大臣であり、その政策如何によっては日本人をとんでもない場所につれてゆく危険性が大いにある。
 ここでは最初に、二人の著名な経済学者・研究者(山家悠紀夫氏と伊東光晴氏)のアベノミクス分析から始めたい。
 山家悠紀夫さん(『アベノミクスと暮らしのゆくえ』岩波ブックレット、2014年)は、すでに「アベノミクス」が始まった時点で、その特徴を三つあげているが、私もまったくその通りと考える。
 1)「非科学的」な政策
 2)多くの経済思想が混在した政策
 3)現状認識を見誤った政策
 また伊東光晴氏は、次のように述べている(重倉篤郎『日本の死に到る病 アベノミクスの罪と罰』河出書房新社、2016年)。
 「祖父(岸信介元首相)を神様のように思っている。思い込みが激しい。改憲をやりたがっている・・・」
 「思い込みの激しさが、希望的観測を現実だと思わせている節がある。その好例が五輪招致の際の福島原発汚染水『アンダーコントロール』(完全制御)発言だ。経済政策でも同様だ。成長によって全ての問題を解決しようとしている。ただこれは幻想だ。現実に経済は成長していないし、人々の家計も潤っていない。」
 「安倍氏は自分でやっていないことを自分の功績にしてしまう。最初の三本の矢で株高、円安を自分の功績にしたのと同じだ。」

 二人は、同じ事実を前にほぼ同じことを述べているが、伊東氏のほうが安倍晋三という人物のメンタルな側面に即した言及と言えるだろう。私の意見をつけ加えると、おそらく安倍氏はコンプレックスを持っているにちがいない。それが、祖父を神様のように思わせるとともに、祖父を超えたいという心的衝動を生み出すのだろう。だが、彼はそれを合理的、論理的な思考と政策によって成し遂げようとするのではなく(もちろん、そうはできないので)、姑息政策(常習的な虚偽、政治的圧力など)によって成し遂げようとする。
 
 だが、何はともあれ、安倍氏が<日本経済を長期停滞から脱出させるための政策>を実施しようとしていることだけは、つまり経済政策上の目標だけははっきりしていると言えるようだ。私は、この目標が彼の軍事路線(戦争法など)、改憲路線と密接に関係していると思うが、この際、この論点は後回しにしよう。
 さて、通常、いかなる政策立案者も、政策目標を立てる場合には、まず (1) 現状を明確に認識し、どこに問題があるか(つまりその政策を打ち立てる動機となった原因・要因が何か)を明確にした上で、次に (2) どのような政策手段によってその問題が解消されるか(つまり目的と手段との科学的整合性・妥当性)を検討・説明し、さらに (3) その手段によって生じる結果(副作用を含めて)検討・説明することが求められる。
 だが、山家氏の著書が明らかにしているように、安倍晋三氏にそれを求めても無駄であろう。彼はただ「アベノミクスを強力に推進します」、「長期停滞からの脱出に効くはずです」と勝手に宣言しているにすぎない。きちんとした現状分析もなければ、政策目標と政策手段との整合性の説明もない。まさにあるのは「思い込み」や「希望的観測」にすぎない。
 もちろん、山家氏が第二の特徴としてあげている「多くの経済思想の混在」も、安倍氏が多くの経済思想を深く学んで、その神髄を理解しているといったことではまったくない。ただ希望的観測にもとづいて、彼にとってよさそうに見えるものをつまみ食いしているでけである。だから、新自由主義政策も、その一つの流れをなすマネタリズムも、いわゆる「リフレ論」も「積極的な財政支出」(「ケインズ政策」)もごちゃ混ぜになっている。
 よく知られているように安倍氏は嘘もつく。彼は、財政健全化のために再度の消費増税(8%→10%)は景気動向にかかわらず必ず実施します、と発言していたが、総選挙の大きな争点になりそうだと判断したときに、延期した。
 たしかに現状認識については、安倍氏が言及していないわけではない。しかし、その現状認識は、残念ながら、まったく間違っている。
 山家氏も指摘しているが、安倍氏は長期停滞(あるいは安倍氏やその周辺が多用する表現「デフレ不況」)が1990年代のバブル崩壊とともに始まっていると述べているが、決してそうではない。むしろ長期停滞や「デフレ不況」というならば、それは1998年頃から始まるというのが正しい。
 これは、下図(名目GDPの推移)から明らかである。見られるように、名目GDPの停滞は1998年からはじまる。また、名目GDPの低下・停滞がまさにこの時期に始まる「雇用者報酬」の低下とシンクロしていることも明らかである。
 しかし、こうした事実に安倍氏はいっさい言及しない。知らないのだろうか? もしそうだとしたら「どあほ」というしかない。一方、もし知っていて言及しないのであれば、不誠実きわまりない態度である。いずれにせよ、こうした趨勢は、まさに歴代の自民党政権(橋本政権、森政権、小泉政権、第一次安倍政権)の時代に生じたことである。
  

 

出典)内閣府「国民経済統計」より作成。


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